〜〜〜 空の蒼 〜〜〜
(2008年土方追悼・史実バレ)
――― ターーーーーーーンッ!
終焉を知らせる号砲が高らかに響いた。
馬上から傾ぐ身体と共に、斜めに角度を代えてゆく風景をゆるりと認識する。
確かな衝撃が身体に走った瞬間、全ての音が停止した。
眩しい北国の春。
陽射しは明るく萌芽の時を寿ぐが如し。
蝦夷特有の乾いた風が頬に触れては散ってゆく。
ふと、霞んでいた視界の中に見知った笑顔が映りこんだ。
懐かしい。
涙が出るほどに懐かしく、幾度も会いたいと願った顔だ。
「かっちゃん・・・」
忘れた事などない無骨な笑顔が自分を見下ろしている。
「迎えに来るのが遅いぜ」
声にならない声で悪態を吐くと、四角い顔の隣から人懐こい笑みを浮かべた
弟分がひょっこり顔を出した。
「・・・お前まで来たのかよ」
きらきらと悪戯げに微笑むその顔には、最後に見た時の病んだ気配など
どこにもない。
それが嬉しくて男の口元が緩んできた。
彼らの背後にはやはり見慣れた顔がいくつも見え隠れしている。
皆穏やかな表情を浮かべて男を見下ろしていた。
「やるだけやったぜ・・・もう、いいだろう?」
嵐の中で激しくうねる濁流のような時代を必死に泳いできた。
時勢というものを確かに感じながら、けれど己の信じた道を曲げずにきたのだ。
古の昔、やはり時流に抗いきれず壇ノ浦という西の果ての海に沈んだ
尊き幼年天皇に、その祖母たる人は「海の底にも都はありき」と告げたという。
ならば自分達にとっての都はいずこにあるのだろうか。
弟分の隣に寄り添うように立っていた少年が、すい、と空を指差した。
そこには雲ひとつ無く、吸い込まれそうな蒼天が広がっている。
「俺達の都はあの空の上か?」
にっこりと笑うその少年は月代を剃り、前髪を残したままの幼げな顔を綻ばせた。
「ったく、てめえは相変わらず総司ベッタリなのかよ・・・成長しねぇなぁ」
からかうような男の言葉に少年の頬がぷぅと膨れて隣の青年を見上げる。
その青年は照れくさそうに頬をポリポリと掻いて視線をあらぬ方に投げていた。
「っ・・・くくく。そうか。そいつがお前を手放そうとしねぇんだったよな」
今度は互いに一瞬視線を合わせた二人が、同時に逆方向を向いて
何やら落ち着かない動きを見せる。
吹き出しそうになった男の前に無骨な手が差し伸べられた。
「ああ、そうだな。こいつらをからかうのは後にしよう。
行こうぜ・・・俺達の都へと」
伸ばされた手をしっかりと握り返し、男は立ち上がる。
井の中の蛙 大海を知らず されど空の高さを知る
空の高さを知り、大海の広ささえも知った男達は・・・蒼天へと駆け上がる。
全てを押し流した時代という濁流の中に、確固たる軌跡を刻みつけて。
2008.05.11.〜05.30.