〜〜〜 腕の中 〜〜〜



――― げしっ!

鋭く蹴られて目が覚めた。



「ん〜〜〜?」

じわんと痛みの滲む足の甲を撫でながら、セイが眠い目を擦る。
ぐわおぐわおと仲間達の鼾やギリギリという歯軋りの合間に、
隣から平和そうな寝息が聞こえた。

至近距離。

今にも触れ合いそうな場所にある男の顔をぼんやりと見つめる。
どんな夢を見ているというのか、実にだらしない微笑を浮かべたその顔は
たいそう幸せそうだ。

「ふんっ」

どうせ自分の夢なんかじゃなく、敬愛する男達の夢なんだろう。

小さく息を吐いたセイが自分の肩を抱き寄せるように乗っかっていた
重い腕を振り落として背中を向ける。
再び蹴られる事の無い様にと男の布団から最も離れた場所へと体をずらしかけた。


「んっ・・・」

微かな声と共に肩が掴まれて、元の場所へと引き戻される。
振り返ったセイの目には、先程までの幸せそうな笑みなど消え
眉間に皺を寄せた不機嫌そうな寝顔が飛び込んできた。

「沖・・・っ・・・」

目覚めているのだろうかと声を上げかけたセイが自分の口元を手で覆う。


ズリズリと自分の腕の中に柔らかな温もりを抱え込んだ男が、
再び平和そうな笑みを浮かべたから。



「・・・・・・・・・まったく、もう・・・」

小さな小さな呟きは相変わらずの騒音に紛れ込んだ。

たとえ大好きな局長や副長の夢を見ているのだとしても、
この腕は自分を望んでくれているのだと思えばセイの頬が緩む。
片手を伸ばし、外に出たままの肩へと掛け布団を戻してやる。

「おやすみなさい、沖田先生。もう蹴飛ばさないでくださいね・・・」

耳元で囁けば一瞬男の表情が柔らかに溶け崩れた。



なんという事もない、ある夜のお話。




2009.03.26.〜05.28.