〜〜〜 小者と勝者 〜〜〜
何故そんな話になったのか。
珍しく試衛館一派が副長室に集い、酒を酌み交わしているうちに
すっかり武士として成長し、使える隊士となったセイの事が話題に上った。
相変わらずセイに対して厳しい評価をする土方を原田がちゃかし、
永倉と藤堂がそれに乗る。
そういえば土方さんは神谷さんに甘えたりしてましたよねぇ、と総司が暴露し、
その場は大騒ぎ。
そんな中にポツリと零れた近藤の呟きが発端だった。
「最近の神谷君は随分と落ち着いて、昔のように動じる事が減ったな」
その場にいた男達の脳裏に、入隊したばかりのセイの姿が浮かんだ。
小さな事でも顔を真っ赤にして怒ったり照れたりと初々しかった姿が。
「・・・・・・確かに、減ったな」
「・・・時々サノが怒らす事はあるがな」
「そういう、ぱっつぁんだって怒らすじゃねぇか」
「土方さんも怒らせてますけどね」
「お前もだろうが、総司」
「でもさ、可愛らしく頬を染めて照れる姿って見なくなった気がするよ、俺」
「「「「・・・・・・見たい・・・かも・・・」」」」
「・・・・・・・・・・・・」
嫌な予感にそろりと身を引いた土方の腕が、両脇からガッシと抱えられた。
「行くぞぉぉぉぉ!」
「「「おお〜〜〜っ!!」」」
「て、てめえら、俺を巻き込むんじゃねぇぇぇ!」
ずだだだだ、と部屋を駆け出した賑やかな男達の後姿を、近藤と井上がほのぼのと眺めていた。
夕餉の片づけを終えて広縁に腰を下ろしたセイが月を眺めていると、背後から足音が聞こえた。
一番、原田
「お〜い、神谷、これ見ろよ〜!」
新しく入手したらしい春画本を嬉々としてセイに差し出すが、ちらりと絵を見ただけで
表情を変える気配も無い。
「なんだよ〜、お前も男なら少しは反応したっていいじゃねぇかよ」
「そんな物を見てる暇があったら、さっさとご帰宅なさっておまささんと睦まれた方が
余程楽しいんじゃないですか、原田先生?」
(今更春画本程度じゃ動じないってば、神谷は・・・ 覗き見組@心の呟き)
二番、永倉
「よっ、神谷。最近妾宅の妓とはどうだ? ありゃ、いい妓だからなぁ、お前もさぞや・・・」
「他人の色事の話よりもご自分の方が大変なんじゃないですか?
最近祇園の妓にばかり通っているって、島原の妓が悋気で大変らしいって聞きましたよ。
早々に始末をつけないと、島原の出入り禁止をくらいますよ、永倉先生」
(あーあー、説教くらっちゃってるよ・・・(汗) 覗き見組@心の呟き)
三番、土方
(なんで俺まで・・・。こんなガキの頬を照れて染めさすなんて簡単だろうが、見てやがれ)
「おい、神谷! さっき近藤さんが、お前も随分成長したと褒めていたぞ」
「本当ですか?(瞳がきららん)」
「ああ。確かに落ち着きも出てきたし、見た目もな、大人びたと思ってたんだ、俺も。
(艶を交えた流し目でチラン)」
「・・・・・・・・・・・・」
「なんだ、お前のその胡散臭いモノを見る眼はっ!」
(タラシのトシの色気も形無し、哀れなほどだな・・・ 覗き見組@心の呟き)
四番、藤堂
「神谷っ。明日、一緒に島原に行かない? 神谷は良い男だからさ、人気があるんだよね。
一緒に行くと俺も芸妓達に大事にしてもらえるしさ〜」
「そんな事はありませんよっ! 藤堂先生だって、すごく人気があるじゃないですか?
優しいし気さくだし、私なんかがいなくたって、全然全く問題無いです!」
「そ、そうかな〜?」
「そうですよっ!(どきっぱり)」
(何を励まされてるんだよ、ヘースケ・・・(汗) 覗き見組@心の呟き)
真打、沖田
「か、神谷さんっ?」
「沖田先生」
「あ、あのですね・・・(もじもじ)」
「はい?」
「ええと・・・(もじもじもじもじ)」
(意識しすぎだ、総司。お前が頬を染めてどうする・・・ 覗き見組@心の呟き)
「神谷」
「あっ、兄上v」
「例の件だがな、明日の午後にしよう」
「? 何の話ですか、神谷さん?」
「ほら、局長のお供で明後日から数日、宮様の警護をする事になったじゃないですか?」
「そういえば、そんな話もありましたねぇ」
「今までそんな偉い方の警護を至近でした事などありませんでしたから、
失礼の無い作法を教えていただけるようにと斎藤先生にお願いしてたんです」
「ああ、なるほど」
「私はどうしてもガサツになってしまうので・・・局長に恥をかかせてはいけませんし」
「まあ、確かに・・・貴女は乱暴者・・・いえいえいえ」
「そんな事は無いだろう。側にいて威圧感の無いようにと小柄なお前が選ばれたのは
確かだろうが、腕も確かだし見た目的にも美しい若衆だ。
無駄な力を抜いていつも通りでいれば良い」
「はいっ、兄上っvvv」
「・・・・・・・・・(むぅぅぅぅぅっ!)」
染まった頬と喜びに潤んだ瞳が月光に照らされ、勝者は定まった。
翌日。
ばきぃぃぃっ! どかーーーーん!!
「次っ!!」
「茶を持ってこいと言ったろうがっ! 何してやがるっ!」
道場から響く異音と副長室から放たれるピリピリした空気に屯所中が緊張している。
「なぁ、ぱっつぁんよ」
「ああ?」
「総司の機嫌が悪いのはわかるけどよ、どうして土方さんまで?」
「知るかよ、俺に聞くな」
「いずれにしても、神谷は罪作りだねぇ・・・」
男達の視線の先には仲睦まじく語り合う、昨夜の勝者と小柄な隊士の姿があった。
2010.05.29.〜08.07.