春うらら



河川敷、母にお使いを頼まれた帰り、何故だか迷子になっていた若菜を見つけて捕獲した。
「なんだってこんなところに・・・・」
しょうがないなぁと妹に弱い総三郎は抱きかかえると歩き始める。
「だって、あにうえがいなかったから・・・」
少しぐずったが、先ほどおまけでもらった金平糖を口にほうりこんでやるとおとなしくなる。
何故だか甘味屋の前や、菓子屋の前を通ると妙に貰い受けるのだ。
『・・・父上のおかげ・・・・?かな?』
喜んでいいのやら、情けなく思えば良いのか。
それでも若菜が泣かずにすんだので胸をなでおろし今日ばかりは感謝した。
むしろ若菜が泣きそうになったり、泣いてる時は毎度感謝しているのだが。






しばらくいくと桜の木が並ぶ道に出た。
「あにうえ、あそこあそこ」
指差す先を見ると桜の花が舞っていた。
「早い開花だね。若菜が見つけたのかい?」
「はい、あにうえに見せたくてさがしてたのです」
「そうかありがとう」
髪の毛が乱れるほどくしゃくしゃに撫でてやると嬉しそうに笑った。
「母上や父上にはいいの?」
「ははうえはちちうえと一緒におでかけです」
「そっか」
そっけなく答えると歩き出す。
若菜がこっちまで歩いてきたわりに誰も探しに来なかった理由はわかったが、
使いを頼んで何処へ行ったのだろう。
疑問を残したまま家路に着くのであった。









非番の日、たまには子供たちを置いて少しだけ足を伸ばそうと総司が提案した。
子供たちなら上の子はもう大きいし、下の子は新選組の面々だって見ていてくれる。
「ここの桜はまだみたいですね」
こっちへ足元を気をつけてくださいねと妻へ手を差し出す。
「本当に、ここに来るのも久しぶりですね」
泣き虫の木の下だった。
懐かしむようにセイは手で触れる。
その手に重なるように総司が手を触れる。
「何かあるとここに来てましたからね」
「本当に、他の人の分まで泣いてしまう珍しい虫が居た木ですからねー」
笑いながらセイの鼻の頭を軽くこづくと、何か言い返そうとしたセイの手を引いて
道からは見えない場所に連れて行くとごろんと横になった。
セイの手を引いていたものだから、そのままセイは総司の胸の中へ。
「ここでごろごろするのも久々ですねー」
着物が汚れるからこのままでいなさいとセイに言いつけると抱きついたまま
寝息を立て始めた。
「重くないんですかね・・・?」
頬を指でつついてもびくともしない。
「たまにはいいかな、懐かしいし」
そして暖かい。
総司の胸に耳を当てると心臓の音がしてなんだかドキドキした。
まるで昔に戻ったかのように。
なんだかうとうとしてしまい、セイもそのまま寝付いてしまった。





はっと起きると夕刻であった。
夕飯の支度をしないと。
そう思い起き上がろうとするも違和感があった。
よくよく見ると上体を起こした総司の胸の中に居たのだ。
『あ・・・』
先に起きたらしい総司が羽織をかけてくれたおかげで寒くない。
「起きましたね」
そういいながら微笑むと寝ぼけた妻を、寒くないですかと聞きながら抱きしめる。
「たまにはこんな贅沢もいいですよね」
幸せな時間は長い、子供たちも居る。
それでも貴女と二人で居る時間が短くて・・・・。
本当ならもっともっと一緒にこうしていたいんですよ。
暗にそう告げていた。
「私もそう思います」
心臓の音が少し早くなる。
どちらの心臓の音かしら。
懐かしい甘い感覚に囚われながらその感情のままにお互い唇を重ねる。
もうすぐ日が沈む。


「またきましょうね」
最近セイを子供たちにとられっぱなしでしたからと少し年を取った顔で微笑む。
「はい、次は甘味めぐりですかね?」
お互いの顔をみて笑い出す。
「さて帰りましょう」
手をつないで仲良く。
この時代には珍しい行為だが、二人は気にしない。
愛しい人と触れて何が悪いのか。
それが言い分だった。
その時間が幸せで、長いような短いような家路だ。







「あ、夕餉どうしましょう・・・」
「こんな日くらい手抜きでもいいんじゃないですかねぇ、いつもこったものばかり
作って疲れるでしょうに」
「それは総司様においしいものを食べていただきたいからです!!」
わかってますけどと嬉しそうな反面無理はしないでほしいなぁと釘を刺される。

家が見えてくる。
すると門から子供が飛び出してきた。
「ははうえ!!ちちうえ!!」
若菜が走ってくる。
二人で受け取ると嬉しそうに微笑む我が子の顔が目にの前にあった。
慌てた様子で出てきた総三郎は何かしていたのか、若菜の無事を確かめると
ぺこりと頭を下げ中へ戻ってしまった。
なんだろうと怪訝に思い夫婦仲良く顔を見合わせ家に入ると、
総三郎が夕餉の支度をしていた。
どうやら火を扱っていたためそのまま戻ったようだ。

「総三郎がやってくれたのですか?」
「母上もたまには息抜きしたほうがいいですよ」

ため息をつかれるとなんだか息子も大きくなったものだと思う。
今考えるともうすぐ自分が清三郎になった年くらいかと思い出し、
ここ十数年の歳月の流れの速さに驚く自分が居た。
沈黙をする母を、自分に対する不満と感じたのか総三郎が口を開く。

「屯所で賄いは慣れてるし、母上の様子も良く見てますから火の取り扱いは
 大丈夫です。だから座って休んで、二人で仲良くしててください」
「若菜も!!」
「うん、三人仲良くしててよ」
「セイ、総三郎の腕前はなかなかですよ?」

屯所でたまにつまみ食いをしているらしく総司もそういう。

久しぶりに若菜とも仲良く話をしていると程なくして総三郎の料理が
それぞれの目の前に並んだ。

「いただきます」

なかなかおいしい。
なんだか今日は一日幸せすぎて涙が出た。
「は、母上そんなにまずかったですか?」
「そんなことはないわ。おいしくて涙がでちゃったの」
自分でぬぐう前に総司が涙をぬぐってくれた。
だってそれは私の役目でしょ?無言でそう告げていた。

--------------なんて幸せなものを私は手に入れたのだろう。

こうして平凡な一日は過ぎていくのであった。








にょ〜〜〜!!
うちの『夢行シリーズ』をベースに柏木さんがお話と絵を書いて描いてくださいました!!

素敵です! 本当に素敵だ〜〜〜!!
穏やかな春の空気が其々の周囲を取り巻いていて、海辻がこのシリーズで書きたかった
優しい世界を見事に現してくださっています。

すごいよ、かっし〜。びっくりしたよ〜〜〜!!
いきなり届いて何気なく読んだ時には心臓が止まりかけたよ〜!!
(そのくせ「キスのひとつぐらいしろ〜! 総司〜!!」と騒いで
そのシーンを書き足させた我侭者でゴメンナサイ(汗))

かっし〜の中ではこの作品の総三郎はセイちゃん似のストレートの髪で
外見は似てるけど中身は総司に似ないのが希望だそうです。
ついでに言うと総司よりもモテるので父は落ち込むというオプション付き(笑)
(そしてセイちゃんに慰められるらしいです)

未来の彼らに関しては、私より突っ込んだイメージが出来ている柏木さんの作品は
やはりとても幸せそうで見ていて楽しい♪


かっし〜、ありがとうございました。
本当に嬉しかったですよ〜。
これからも宜しくお願いいたしますねvvv