足りないのは・・・ 



ぼ〜。。。

「・・・おい。なんとかならんのか?あれ」

隊士達が覗き見た先には、刀の手入れをしながらも心ココに在らずといった様子の
沖田総司だった。

朝の内に終わった稽古の後、ぶらりと出かけようと廊下を歩いていた時に

彼は既に刀の手入れを始めていた。

充分に堪能して皆で戻ってきた今、一番隊組長は今だに同じ姿勢で刀に向かっている。

「何してんの?」

「あ、藤堂先生」

どこから仕入れてきたのか両手にいっぱいの水菓子を持った藤堂が
隊士の視線の先を追うと何だかボケーッとした総司の姿。

「同じ一番隊だろ。何かあったの?」

「・・・・ん〜。特には無かったと思いますが・・・」

稽古はいつも通りに半端じゃなく厳しかったし、隊務もいつも通りにこなしていたと思う。

「俺達随分前に出かけたんですけど、その時から今までずーっとあの調子なんです」

「ふーん・・・」

平助は『まぁいっか』と肩をすくめるとスタスタと総司に向かって歩いていった。

総司の後ろを通らないとこの甘い果物をさばけないのだ。



「あっ」



コロコロコロ・・・・・。



両手に収まっていた丸い水菓子は、一度均衡を崩すと押さえきれずに廊下へと
転がってしまった。

コツンッ

総司の腰に当たって止まった甘い香りのそれに、気づかない総司に平助は首をひねった。

いつもなら匂いに反応して来るのに・・・。

「風邪でもひいたの?」

「わっ、藤堂さん、いつからそこに??」

「あぶなっ、あっぶないなー」

心底驚いたという様子で肩をビクリと震わせた拍子に持っていた刀が落ちそうになる。

「驚いたのは私の方ですよ。人が悪いなぁもぅ」

「・・・・・・総司、そこ片づけて待ってなさい」

「はい?」

ビシッと指を指されて沖田は呆気にとられて平助の背中を見送った。





「ほい、これでも食いなさいv」

言われた通りに周りを片づけてすることもなく中庭を見つめていると、
ふいに頭上から明るい声がした。

「これは先ほどの?」

「うん。ホントはじっくり冷やしてみんなで食べようと思ったんだけど・・・・」

差し出されたお盆には、沢山盛られた不器用に切られた水菓子。

「良い匂い」

甘い香りを思いきり吸い込むと、ギュルルと腹が鳴った。

「あー、そう言えばお昼まだでした」

「えー?それじゃ尚更いっぱい食いなよ」

総司はにっこり笑うと1つ2つと口に運んだ。

「うわぁ、すごい食いっぷり。・・・・また腹壊さないようにね」



ブブブーッ



総司が思いっきり吹き出した。

そう言えば、以前差し入れにもらった水菓子をセイの制止も聞かずに
おなかいっぱいに食べてしまい翌日腹具合が良くなかったのだ。

そのことを随分セイに叱られて、それ以来ちょっと手をつけようものなら厳しい目があった。

「そう言えば神谷は?」

「・・・・今日からお休みです」

言いながら、ごちそうさまでしたと手を合わせて総司が立ち上がる。

「さてっと、散歩にでも行ってきます」

「コレ持っていきなよ。いってらっしゃーい」

水菓子を二つ受け取って屯所を出た。

まあるくて黄色い甘い水菓子。

初めはのんびりだった足取りが段々早くなっていくのがわかった。

果物を見ると、思い浮かぶのは眉をしかめながら自分を見るセイの姿。

『沖田先生!またお腹壊しても知りませんよ!!』

(わかってるんですけどねぇ)

心配されると、なぜか逆のことをしてしまい、そんな自分にセイが本気で怒って

顔を真っ赤にするのを見るのが困ったことに嬉しくて・・・・。

頬が緩むのを感じて道を急いだ。



トンッ



「わっ、・・・・沖田先生?」

「神谷さん?」

倒れかけたセイの腕を引っ張った。

「お土産です」

手にした一つを差し出した。

落ちたもう一つを拾ってセイが土埃を払った。

体を起こす瞬間、セイが総司の着物に鼻を近づけた。

「あー、沖田先生先に召し上がってきたでしょう」

「え?え?」

総司は焦って袖を交互に鼻に近づける。

セイは眉を少しだけひそめて一瞬後に肩を竦めた。

「上がってください。ちょうど良いところにいらっしゃいましたね。お菓子がありますよ」

ニコリと笑ってセイが沖田を先導する。

「・・・はい♪」

小さな背中を追う。

何だか朝から違和感を感じていた。

それは小さな小さな喪失感。

そう、足りないのは・・・・・・、

「神谷さん」

「え?」

「いえ、何でもないんですー」

「変な先生」

首を傾げて足早に家に入るセイの後を追いかけた。





初お題挑戦作品です。
鈍な総ちゃん。無意識でセイちゃんの存在を探してしまうみたいな・・・・??
どうでしょうぅ(´・ω・`;A アセアセ

2004.08.14  空子










『つれづれ』の空子さんがサイトのお題で書かれた作品です。

先日リンクをさせていただいた時に拙宅リンクページで“足りないのは・・・”と
“半分”が特に好きな作品です、と書きましたら
「よろしければ、どうぞv」とくださったんですよぉぉぉ!!!!

あんびりーばぼー(感涙)

海辻がとっても好きな総セイのお話なんです。
空子さんは数多くの作品を書かれているのですが、最初に読んだ時から
ず〜〜〜っと心に残っていたのがこのお話。

ふんわり暖かくて、少しおとぼけで、でも全体に優しい風が吹いている感じ。
平助の何気ない思いやりもとても好きです。

空子さん、本当に有難うございました。
これからもどうぞ宜しくお願いいたします(礼)