半分
「大丈夫ですか?」
セイは、一つくしゃみをした山南に着物を差し出した。
「ありがとう」
先日まで暖かかったのに今日は陽射しも遮られ風も強く肌寒い。
こんな不安定な天候が続いていて、隊士の中には体調を崩す者も少なくなかった。
「神谷さーん」
軽い足取りで沖田が廊下から顔を覗かせた。
「・・・元気ですね」
「えぇ。神谷さんも」
(嫌味も通じない)
にっこりと笑顔で返されてセイはおもしろくなさそうに唇を尖らせた。
二人のやり取りを見て山南が小さく笑う。
「なんですよう?」
沖田は不思議そうに山南を見た。
「いや、何か用かい?」
「甘味でもどうかなと思ったんですけど…」
チラリとセイに視線を向ける。
「そんなヒマはありません」
言いながらセイは部屋を片付けていく。
「いいから。神谷君。行っておいで」
「でも…」
「そうだな。お茶受けでも買ってきてくれるかな」
微笑むとセイに駄賃を握らせた。
「…はい」
「楽しみにしていてくださいね♪」
「ああ。期待しているよ」
山南に見送られて、二人は屯所を後にした。
「久しぶりですよね。甘味」
向かい風に髪を押さえながらセイは隣の沖田を見上げた。
「そういえばそうですよね。無性に口にしたくなったんです」
疲れてるのかなぁ。本気で沖田が首を傾げる。
その様子に肩を竦めて溜め息一つ。
「そうですか・・・」
「そうそう、そう言えば・・・・」
歩く二人の間を強い風が吹き抜けた。
沖田の声も風の音に聞こえにくくなる。
(・・・そうだ)
セイは沖田の様子を伺いつつ、一歩下がり二歩下がり…。
風をまともには受けない沖田の背後に回る。
「・・神谷さん?」
隣にいたはずのセイの姿がないことを不思議に思って首だけ後ろを振り向くと
セイがしまったという顔をした。
「な、なんです?」
「私を風よけにしないでくださいよ」
「あ、ばれました?」悪びれる風でもなくセイはペロリと舌を出した。
「「わっ」」
突然の突風に体を押され思わず沖田にしがみつく。
「・・・すみませんっ」
慌てて手を離す。
「私が寒いじゃないですか〜」
気にする風でもなく沖田は言う。
「こ、こんな日に外に誘うほうが悪いんじゃないですか」
あははと沖田が頭を掻いた。
「それもそうですよね〜。ではしばらく風よけになりましょう」
沖田は風を遮るようにセイの前に立った。
強い風にあっても揺らがない身体。
それは沖田の心の姿勢にも見て取れてセイはしばらく視線を逸らすことができなかった。
「すみません。あまりお役たてないかも…」
言うより先に風に押された沖田の体がセイに掛かってくる。
思わず両手を突っ張り背中を支えた。
「もぅ!気を付けてください!」
「あぁ、これはいいですね♪」
「はいはいわかりました。このまま行きますよー」
荷物は半分で。
そう言われたようで嬉しい。
ぐいぐいと大きな背中を押しながら風の中、立ち向かうように駆けたのだった。
暖かくなったと思えば、突然の強風と寒さ。
まわりでは体調を崩す人が多いです。
「なんとかは風邪をひかない」な二人(?)で 笑
守られることはとても心地よいかもしれないけれど、
苦しいことはお互いに分散して持つのが理想だなと思うこの頃です^^
2006.06.19 空子
『つれづれ』の空子さんからリンク記念にいただいた作品、その2です。
しつこく主張するのもなんですが、好きなんですよ、こういうお話がっ!!
日常の中に落ちている些細な事象から温かな繋がりと確かな想いを拾い上げる、
そしてそれを優しい空気の中で表現される空子さんのお話・・・大好きですv
北風がびゅうびゅう吹いているはずなんですけどね〜。
どうしても二人の周りだけ、ほんわかした日溜りがあるような気がします。
頼りになりそうで、ちょっと頼りない総司や、それさえも愛しいセイちゃんが可愛いです♪
空子さん、素敵なお話をありがとうございました。
これからもどうぞ宜しくお願いいたします(礼)
そしてご迷惑でない程度に、かまってやってくださいませvvv