鯉の中身は野暮天大王
「も、もう本当に勘弁してください!
この間みたいに誰かに見られたらどうするんですかぁっ」
「いいじゃないですか、私がやりたいだけなんですから♪」
屯所の一角から今日も苦労症の妻と元・野暮天の声が響いてくる。
まだ西に日があるうちから今度は何を始めたかと影から男が覗き込んでみると、
そこには幼子に構う母親紛いの仕草で、匙を嫁の口に突っ込む沖田の姿。
どうやら魚の肉を煮込んだ粥らしきものを無理やり食わせているらしい。
一瞬殺気が吹き出そうになるが男は影に徹する任務の最中故、
己は幽霊空気陽炎と念仏を唱えて平常心を保った。
そんな男の努力を無にするが如く、さらに沖田が爆弾発言を発する。
「知り合いのお寺さんから貰ってきた霊験あらたかな鯉の肉ですからね〜。
私が直接捕まえてきたものだしきっと効果もテキメンですよ♪」
「ちょ、直接ってまさか盗んで――」
「やだなあ、『私を捕まえてv』って鯉さんが」
「アホかぁぁぁ!!さっさとお寺さんに謝って腹斬って来いっっ」
「えええ。私はセイの為にやってきたのにぃ」
「そんな愛は要りません!!」
今にも脇差に手を伸ばそうとするセイを制してにっこり笑う沖田に、
影の男は副長に報告するかと嘆息する。
真っ赤になって怒るセイの顔が可愛いとつい鼻血を漏らしかけた矢先に
野暮天男が満面の笑みでもって続ける。
「ふふ。鯉は滋養強壮の効果があるそうですから体力付けるにはもって来いですよねぇ」
「も、本当にやめてください。原田先生にでも見つかったら即刻屯所で槍玉に上げられるに
決まってるんですからぁぁぁ」
「もう遠慮しすぎは毒ですよ。こんなにお腹が大きくなって不自由してるじゃないですか。
それを夫が助けたいと思う事のどこが悪いんですか?」
「そういう意味じゃありません!」
いつだか(縁の下で)聞いたような言葉に男の怒気が再び湧き上がる。
だが必死に必死に平常心平常心と唱える姿はもはや仏かお坊様である。
妻の泣き叫ぶ心情が男の殺気を隠しているらしく、未だ気配に聡い男がこちらに気づく様子はない。
夫の男はうきうきと匙に粥を掬い、再びセイの口に突っ込もうとした。
さすがに男に混じって剣を振っていた勝気な女子でもこの野暮天には些か参ってしまったらしく、
泣きそうな声でそれを断った。
「も、もうお腹一杯です! 今日は休みます!」
「そうですか? じゃあお布団に行きましょうね〜」
「え」
妻が有無を言うより先に、総司は二人分となった体重を膝から軽々と抱え上げて
セイに悲鳴を上げさせる。
仰天したのはお腹の子ばかりではなく影の男も同様だろう。
「今日はお日様にしっかり干したお布団ですからね〜きっとぐっすり眠れますよう〜」
「おーろーしーてえぇぇぇぇ…………」
(…………)
断末魔のように遠ざかっていく可愛そうな女子の声を聞きながら、明日の合同稽古で
絶対ぶちのめしてやると硬く心に誓った男、斎藤一。
とりあえずそのちょっと後ろから副長が何をしてやがるとばかりに後襟を掴んだのは別の話である。
とんひゃらひょん。
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ええと辻さんの「雛の使は〜」に触発されて出来た…と言っていいのかどうかのアホ駄文でございます。
私が書くと如何しても不憫兄上とアホ総司・苦労セイという構図が崩れないですはい。
なんとなく対応でタイトルがぱっと浮かんでからは「総司の話、鯉>食わせる(最初は池行って
捕まえるとこからでした)」と転がり…お目汚しでございます。
むふ。
むふふふ。
むふふふふふふ。
頂いちゃいましたのコトですわよ。美亜さんにっ!
拙宅の『夢行シリーズ』の沖田夫婦のお話っ!!
突然のメール、その中にあったお話に目が点。
アンビリバボーーーッ!!!!(驚愕)
嬉しすぎて無意味に室内をウロウロウロウロ。すっかり不審人物と化してしまいました。
鯉を盗んだ事に悪びれない総司も爆笑なのですが、なんといっても
「お寺さんに謝って腹斬って来い!」のセイちゃんの切り返しに大爆笑。
これなんですよ、これ。このテンポの良さが彼らの生命線というか特色!
それを充分に理解しつつ不憫な兄上を盛り込まれる所がさすが美亜さんです♪
いつもの透明感のある切な〜い作品もとても好きですが、こういう弾むようなキレのある
美亜さんの作品も大好きです。
美亜さん、本当にありがとうございました。
まだまだ未熟な後輩ですが、これからも宜しくお願いいたします(礼)