沖田さん家 パート6



(PPPPPPP・・・・・・)

「ん・・・・」
アラームの音に、総司は布団の中でゆっくりと身じろぎをした。

いつもなら、妻であるセイが起きて止めてくれるのだが、今日はいつまでも鳴り続けている。
不思議に思い顔を出して隣を見てみると、ぐっすりと眠っている。
目覚めが良く早起きのセイには珍しく、アラームの音が聞こえていないかのように
すやすやと気持ち良さそうに寝息を立てている。
総司は布団の中から腕を伸ばして時計を止めた。

今日は日曜日だ。
少しくらい寝坊しても大丈夫。
ベッドから体を起こして、隣にあるベビーベッドを覗いてみた。
そこにはまだ生まれたばかりの息子の颯太が、こちらも気持ち良さそうに眠っている。

きっと颯太が夜泣きをして、その対応に追われていたのだろう。
最近のセイは見るからに疲れていた。
やはり生まれたばかりの子供の世話は大変なのだろう。
なのにセイは一言も文句を言った事がない。
総司にも、家事をさせようともしなかったし、いくら子守が大変でも
総司に手伝えなど決して言わない。
普段は冷たい口調にそっけない態度を取られて悔しい思いをする事が多いのだが、
やはりこの人は主婦の鏡だと尊敬する。

総司はもう1度布団にもぐりこみ、頬杖をついて眠っているセイの顔を覗き込んだ。
結婚してもう何年も経つのに、あどけなく可愛らしい顔が愛しくて仕方がない。

「ふふっ」と笑いながら、総司はセイのほっぺをつついてみた。

「うぅ・・・ん」
微かに瞼が震えたのを見て、起こしてしまったかと急いで顔を隠した。

しかしセイは起きる気配がない。
再びうつ伏せのまま上半身を起こし、セイを見た。

するとセイはすりすりと総司に寄って来た。
そして総司の胸に顔をうずめた。

「総司・・さん・・」
寝言なのだろうか。
総司の名を呼ぶと、幸せそうに微笑んでいる。

自分の夢でも見ているのだろうか。
そんな幸せそうに微笑まれたら、嬉しくなってしまうではないか。

こんなゆっくりと寝顔を見たのはどれくらいぶりだろうか。
いつも自分よりも遅く寝て、朝も先に起きて朝ごはんを作ってくれている
セイの寝顔を見る事などほとんどない。

「セイ?」
小さく呼びかけてみるが、反応がない。
面白くなって、総司はセイのほっぺを軽くつねってみた。
微かに眉をひそめるものの、やはり起きない。

総司はある事を思いついた。
寝ている人に話しかけたら答える人がいるという。
セイも、寝ている時なら普段言ってくれないような事を言ってくれるかも知れない。

「ねえ、セイ? 私の事好きですか?」
訊ねてじっとセイの顔を見ていた。
すると、セイはにっこり微笑んで小さくうなずいた。
その反応に、思わず総司は顔を赤くしてしまった。
結婚して早4年。
セイがこんなに可愛らしく自分に向って頷いた事など、付き合っていた当時しか見たことがない。

「じゃ、じゃあ愛してます?」
ドキドキしながら反応を待つ。

少ししてから、セイはまたもやニッコリ微笑んで頷いた。


ズッキューン


そのセイの行動に、一気に総司の心臓は射抜かれてしまった。

やばい。 
可愛すぎる。

興奮して鼻血が出そうになるのを、上を向いて必死に堪えた。



これ以上こんな可愛いセイを見ると、寝込みを襲いかねない。
夫婦なのだから、世間一般的には許されるだろうが、
この妻が許してくれるはずがない。
そんな事しようものなら、三行半を突き付けられて出て行ってしまうかも知れない。




・・・・・・でも、もう少し見ていたい。


ちらっとセイを見ると、やはりまだ気持ち良さそうに寝ている。


ちゅーくらいなら許されるだろうか。


総司はドキドキする心臓を押さえながら、ゆっくりとセイに顔を近づけた。
すっぴんなら10代でも通用しそうな程きめ細やかな肌を、うっとりとしながら撫でた。
そして髪を指で梳いてみる。
サラサラの髪に、総司の指はすんなりと通った。

セイが起きないよう、そうっと口づけた。


『ううっ 柔らかくて気持ちいいっ・・・』


初めてのキスでもないのに、改めてセイの唇の柔らかさを感じて
更に総司は興奮してきてしまった。


『やばいっ! 私の元気くんがウルトラ元気くんになってきてしまった』

このままだと、ウルトラスーパー元気くんになりそうだ。
なのに、どうしてもどうしてもセイから離れる事が出来ない。

セイの頬を手で包みこみ、先ほどよりさらに深くキスをした。
すると、無意識なのか、セイは総司の首に腕を回してきた。


こうなると、もうどうにも止まらない。
どんどんと激しさを増しながら口づけると、総司はセイの腰の辺りに手を置いた。

怒られたらどうしようなどと、そんな考えなどもうどこかへ行ってしまったようだ。

もう無我夢中でセイの首元に口づけ、パジャマの中に手を入れようとしたその瞬間。




「何やってるんですか」
ドスのきいた声が、総司の頭上から聞こえてきた。


一気に体中に冷や汗が流れた。

恐る恐る体をセイから離し、セイの顔を見上げると、そこには冷めた目で
自分を見ているセイがいた。

「セイ・・・ おはようございます・・・」


バチンッ






「ごめんなさいってば〜っ!!」
総司の謝る言葉にも、セイは耳を傾けようともせず淡々と朝食を作っている。
「だって、あまりにもセイが可愛かったからっ」
腫れた頬を氷水で冷やしながら、総司は必死に今朝いかにセイが
可愛かったかを伝えた。
しかし完全に眠っていたセイは、まさか自分がそんな行動を取っているなど思っておらず、
全く信じていない。

「本当ですってばっ! 私がセイにキスしたら、腕を回してきたんですよっ!
 誘ってると思うじゃないですかっ!!」
「そんな訳ないでしょう!! それに寝ている私にキスするなんて、
 朝からなんて事するんですかっ!」
フライ返しをブンブン振り回しながら、顔を真っ赤にしてセイは怒っている。
「だって本当に可愛かったんですもん・・・ でも、寝ている時のセイも可愛かったけど、
 怒ったセイも可愛いですけどね」
ふふふっと笑いながらそう言った総司の言葉に、一瞬セイは言葉が出なくなった。
すると更に顔を赤らめ、セイはこちらに背を向けてしまった。


ふふふっ 照れてるv

そんな行動も、セイの事が大好きな総司には可愛くて仕方がない。
セイに近づくと、後ろからセイを抱きしめた。

「ちょっ、ちょっと 総司さん! 危ないじゃないですかっ!! 火点いてるんですよ!!」
セイに叱られても、お構いなく抱きしめた腕に力を込めた。

「ねえ、セイ。 もう1度言ってくださいよ」
「な、何をですかっ」

ふふっと笑うと、総司はセイの耳元に口を近づけた。
「私の事愛してるって言ったでしょう?」
「はぁっ!?」
セイは必死に総司の腕から離れようとするが、それを許さない。
「言ってくれるまで離しませんよ」
「嫌ですっ!!」
「もう・・ 照れやなんだから」
嬉しそうにそう微笑むと、セイの頬にちゅっとキスをした。

「ちょっ! やめて下さいよっ!! 本当に火が危ないですってばっ」
頬に手を当てて真っ赤になって慌てているセイを見て、更に総司はうれしくなった。
「これで良いんでしょう?」
そう言いながら、総司はコンロの火を消した。

「ねえ、言って下さいよう」
今度は甘えた声でお願いしてみる。
「い・や・で・す」
「んもうっ! 意地っ張り!」
「そういう問題じゃありませんっ!」
どんなセイも、総司にとっては可愛くて仕方がない。

「じゃあ、こっち向いて下さい」
そう言うと、総司はセイの顔を自分に向けた。
「キスしても良いでしょう?」
総司はセイの返事を聞かずセイに口づけた。

セイも抵抗をやめ、総司のされるままになっていた。





「・・・・・・もう良いんじゃないかな」
突然聞こえた声に、2人はキスをしたまま固まった。


全く気付かなかったが、リビングのテーブルに、いつの間にか鈴が座っており、
手にはフォークを持っていた。

ものすごい速さで離れた2人は、鈴を見てぎこちなく微笑んだ。
「す、鈴。 おはよう」
「お、起きてたんだ?」

取り合えず笑うしかない。

「お腹ぺこぺこなのに、いつまでやってるの。 空腹で2人のやり取り見てると
 逆に胸やけしそうだよ」
とても3歳とは思えない言葉に、2人は顔を見合わせた。

「ごめんね、すぐ作るから」
セイは慌ててコンロの火を点けた。
総司もぎくしゃくと歩きながら、鈴の隣に座った。

「そういうのは鈴が寝てからにしてよねっ」
「・・・はい」

総司はしゅんとして下を向いてしまった。

久し振りにセイとラブラブなムードになれたと思ったのだが、場所と時間を弁えなかった為
あっけなく終わりを告げた。

この続きは、今夜必ず!!!!

と心に誓った総司だった。


・・・・・が、実行されたかどうかは定かではない。








『Ich liebe dich』様の一周年記念にリクエストしました“沖田さん家シリーズ”です。
管理人のムー様にお願いしたのは「“沖田さん家”のラブラブばーじょんv」

この“沖田さん家シリーズ”は現代総司&セイの夫婦物語なんですが
実にセイちゃんが低糖度&総司が甘ったれ全開という楽しいお話。
文中にも出てきましたけれど3歳になる可愛らしい娘の鈴ちゃんが
とても良い味を添えてくれてます。

いつも楽しく拝見していましたが、どうにも総司の報われなさが可笑しく・・・
いえいえ、切なくて今回「是非にラブラブを」とお願いいたしました。
それがこれ(笑)

もう笑って笑ってどうしましょうというお話です。
“ウルトラスーパー元気くん”って(爆)
日頃あまりにお預けが多すぎるのか、朝から暴走しそうな総司がたまりません。
でも必死に我慢しようとするその理由が「セイが怒るだろうから」というのも
セイちゃんの日頃の躾が見えるようで笑えます。

本当に楽しませていただきました。
ムーさん、素敵なリクエスト作品をありがとうございました。

改めまして、『Ich liebe dich』様、一周年おめでとうございます。
これからのご活躍も楽しみにしておりますねv