神遊びの夜 ―― 秋宵宴 3





「それにしても松本法眼………。お酒強いですね」

上機嫌の松本から祝い酒だと散々呑まされ、ようやく部屋に落ち着いた時は
四つをとっくに過ぎていた。

『セイに赤子が出来ていないとかなんとか。何やらとんでもない話が聞こえた気が
 するんだがなぁ、組長さんよぉ?』

不犯の誓いを反故するに至った顛末を吐かせようとする未来の岳父から、危うく
酔い潰されそうになった総司は、仰のいて後ろ手をつくと畳の上で足を伸ばす。

それでも、セイとの新たな結縁を祝福され、楽しい酒だった。

「晩酌を楽しみに、ご自分で方々の蔵元まで足を伸ばすくらいの酒豪ですから。
 そのうち何処かへ弟子入りして、お酒まで作り始めそうですよね」

新しい夜着と丹前を差し出しながら、セイはやわらかく微笑む。

「もう着替えてお寝みください。他行帰りでお疲れでしょう」

「これ……あなたが?」

見覚えのある丹前の模様に、総司は急いで身体を起こす。

「はい。お孝さんが局長とご自分の丹前を縫っている間、時間に余裕がありましたので。
 せっかくなら先生の夜着もと」

ちょうど縫いあがっていてよかったです、とセイは再度着替えを促す。

お孝への見本としてセイが仕立てた、多色を用いた縦縞模様の丹前と、黒橡色の寝間着は、
上背のある総司によく似合った。

「ありがとうございます、神谷さん」

「いいえ。隊務の副産物で申し訳ありませんが」

着替えた衣類を甲斐甲斐しく片付け終えたセイは、総司が上掛け布団を捲るのを見届けて、
就寝の挨拶をする。

「では、私は隣の部屋におりますので」

「神谷さん」

立ち上がろうとしたセイを呼び止めると、

「もう少し、ここにいてくれませんか。貴女の顔を見るのも久しぶりだし」

布団の上に胡坐を掻いて座った総司は、含羞んだ顔でそうねだった。

「………はい」

求婚された興奮がまだ覚めやらず、内心もう少し総司の傍にいたかったセイは、
素直に頷いて布団のすぐ傍に端座する。


「今日は、本当に吃驚しました」

「はは……明日から忙しくなりますねぇ」

早く貸家も探しませんとね、と総司は呟く。

何度も総司の杯に徳利を傾ける松本からは、何はさておき、とにかく出来るだけ早く
祝言を挙げる約束をさせられた。

少々乱暴な物言いではあるが、万が一に備え、絶対にセイが前言撤回出来ないよう
周りをすべて固めてしまえ、というのが松本の本音らしい。

二人が夫婦になった事を公表して、若妻姿に改めてしまえば、セイの『武士』への未練も
断ち切れるだろう。


それに関しては、総司も異論はない。

むしろ今すぐ屯所に戻って、セイが正式に自分の伴侶となる事を、皆に吹聴して回りたいくらいだ。

そして、『口約束の念弟なら鞍替えは可能』だなんて、二度と言わせない。

だが現実的には、新しい生活には新たな支度がいろいろと必要で。

新居を決め、嫁入りの家具や着物がすべて調うまで、セイはまだ全快しない
南部の世話をしながら、この仮寓で過ごす予定だ。

祝言の細かい打ち合わせは、養父となる松本が明日の朝から総司と共に屯所へ赴き、
主君である近藤と詰める予定になっている。


幕府御典医の養女なんてとんでもない、と固辞するセイに、松本は引かなかった。

『俺の娘なら、これから先も南部の家に出入りして問題ないだろう。
 その上、新選組の情報も何かと入って便利だと思うぞ。………なあ?』

同意を求められ、いつでもどうぞ、と南部も穏やかに頷いた。

かつての肩の刀傷の治療時、一月余りをこの家で過ごすうちに、南部もすっかり
セイを気に入っていただろう事が察せられる。

『それに、夫婦喧嘩の時に堂々と帰れる場所が必要だろう』

何かあった時、総司には屯所に兄分が山ほどいて、相談相手にも居場所にも事欠かないが、
セイには逃げ込める場所がない。

新選組を離れて家庭に入れば、頼れる相手はお里くらいになってしまう。

そのお里だって、『神谷清三郎の妾』の役目を解かれれば何処へでも行けるし、
いつ新たな生活を始めてもおかしくない女盛りの身だ。

『どうせ家に居ても退屈だろうから、日中は俺の元で蘭方医学を齧らせてやる』

留めにそう口説いた松本に、セイもようやく頷いた。

簡単な施術だけでも学べれば、総司に何かあった時、援けになる事が出来る。

そして、今まで自分を育ててくれた新選組の役にも立てるなら、それこそ本望だ。


「………あの、沖田先生」

「駄目ですよ。今さら嫁ぐのが嫌だなんて言わないでくださいね。
 私はもう、貴女を屯所に置きたくないんです」

何かを言いかけたセイに、総司は真摯な眼差しで訴える。

「日頃どれだけの隊士が貴女を盗み見ているか、知っていますか?
 私は貴女が他の男に微笑いかける度に悋気してしまうし。
 土方さんや斉藤さんと親しくするのも胸がもやもやするし。
 寝顔なんかもう、他の誰にも見せたくないです!」

一気に言い切って肩で息をついた総司を、頬を紅潮させたセイはただ、
唖然と見つめるしか術がない。

まさか、そんな風に思って貰えていたなんて。

そうして今まで、血迷ってセイに害為す者が出ないよう、影に日向にと、
密かに見守ってくれていたのだろう。

入隊した夜に秘密が露見した時から、ずっと。

自分はどんな時でも、総司に護られていたのだ。

そう気づいたセイは、嬉しいのと面映いのが混在して、言葉が出ない。

総司の優しさに、胸がきゅうっと苦しくなった。

「………こんな情けない男ですけど、貴女の夫として精一杯頑張りますから。
 末永くよろしくお願いしますね」

含羞み顔でそう告げた総司に、セイは嬉し泣きの貌で何度も首を振る。

「いいえ。……いいえ、私の方こそ。妻として至らない点も多いと思いますが、
 これから努力しますので。よろしくご指導お願いします」

手をついて頭を下げたセイに、総司は安堵の笑顔を見せたが。


「―――――それに……私は疾うに、新選組に戻る資格はなかったのかも知れません」

そのままの姿勢を崩さず、セイは重い口調で呟いた。

「何故…そう思うのですか……?」

「………口ではいつも『私は武士だ』と唱えながら、お馬が遅れていると知った時
 ………確かに悩みましたけれども、同時に喜んでいました」

ゆっくりと上体を起こしたセイは、もしもこの中に命が芽生えていたのなら、
と自分の腹部に手を当てる。

「……先生の赤子を産みたいと……そう、思ってしまいましたから………」

「…神谷さん―――――」

「あれだけ沖田先生や皆様のお手を煩わせておきながら。『神谷清三郎』は結局、
 心の底から『武士(もののふ)』にはなれなかったんです」

目を閉じたセイの頬に、ひとすじの涙が伝う。

「この上もない士道不覚悟です。切腹する価値もない……」

膝の上に置いた拳を強く握り締めたセイを、総司はその腕の中に抱き寄せた。

「……そんなに私を喜ばせて、どうするんですか」

「…せんせい……」

幼子のように総司の背にしがみつきながら、セイはその広い胸に顔を埋める。

「貴女が私のお嫁さんになってくれるだけで嬉しいのに、赤子まで欲しいなんて」

「でも……!」

何かを言い募りかけたセイに、ねえ神谷さん、と呟いた総司は、宥めるように肉付きの薄い
その背をゆっくりと撫で擦った。

「あの村に辿り着いたのは、大和の神の悪戯だったかも知れませんが。私には、いつまでも
 動けずにいる臆病な二人に与えられた、神の僥倖だと思っています」

総司の言葉に、セイはゆるく首を振る。

「………本当は先生が、誠を貫く為に女子を遠ざけていた事を、知っていました。
 それでも私は、触れて欲しいと願ってしまった……!」

ずっと訊きたくて。

けれど、忘れると約束をした事で訊けなかった問いを、セイは言葉にする。


「先生はあの『神事』を、後悔されませんでしたか?」

縋るような眼差しが涙に濡れていない事に安堵しながら、総司も本心を吐露した。

「いいえ。貴女と同行していたのが、私だけでよかったと思いました。あの夜の事がなければ、
 私たちは今でも互いへの恋情を秘めたまま、悶々と過ごしていたでしょう」

素晴らしい縁結びの神ですよ、と総司は微笑った。

「本来在るべき男と女の縁(えにし)を、私たちは自ら課した重い枷に囚われて、難しく考え過ぎて
 いたのかも知れません。―――――だから今はただ、結縁を促してくれた神に感謝しましょう」

「…………はい……」

ようやく笑顔を見せたセイの額に、総司は優しくくちづける。

「困った人ですね……。今夜は我慢しようと思っていたのに。そんなに可愛い貌をされたら、
 なけなしの理性がもう限界ですよ………」

「……もう、そんな事ばかり」

苦笑するセイの言葉は、そのまま降りてきた総司の唇に奪われてしまう。

驚くセイに構わず、総司は防御の足りない朱唇を割り、口腔へ舌を侵入させた。

「………!」

口内を深く舌で探られて、セイは反射的に抗おうとするが、それを見越した総司に
きつく拘束されて動けない。


「………っは……」

やがて息継ぎの為に僅かに離された口から、甘い声が洩れた。

「…本当に可愛いんだから……」

囁きと同時に再開された口吸いの激しさに、セイは脳裡が痺れるのを感じた。

身体の奥深くから、じんわりとした何かがせりあがってくる感覚に、セイは心地よく身を委ねる。

「……んぅっ…」

やがて蜜の糸を引きながら離れた総司が、赤くなったセイの唇を舐め、口の端から零れた
二人の唾液を拭い清めていく。

「………っあ……」

快感に堕ちたセイにとって、啄むようにくちづけられるのでさえ、身体に疼くような熱を灯す
行為になってしまう。

「………いいですか、神谷さん?」

何がとまで言わずとも、総司の意図はさすがにセイにも分かる。

「でも…法眼や医師に……」

「階下まで聞こえやしませんよ」

そう嘯くと、総司はもう一度セイの唇を啄んだ。

「ねえ。いいって言ってください」

そうねだりながら吐息で耳朶をくすぐり、唇を何度も掠めさせると、

「……一度だけ……ですよ……?」

セイは拗ねた口調で、受諾の意を伝える。

松本達がいる仮寓でこんな行為に及ぶ事は気がかりだが、すでにお互い、
後に引けない状況に陥っている。

―――――すでに知っている悦楽の時を、欲しがっている。

「さて。それは貴女次第ですねぇ」

嬉しそうに微笑った総司は、もう一度くちづけると、優しくセイを褥に横たえた。









初めて交わった時は、神の媚薬に支配されていて。

火照る躯をどうしようもなくて。

ただ、見知らぬ熱を鎮めて欲しくて―――――。

はしたないと思いながらも、差し延べられた手に縋ったのを覚えている。

施される愛撫に鳴いて、衒いなく躯を開いて。

いつにない眼差しで見つめられ、快楽の意味を知った。

二度とはない密か事だと。

いつまでも捨てきれぬ己の中の女子に、決別する為の儀式だとも思っていたのに。

今、再び総司に抱かれている自分が、セイには信じられない。


「…せんせい……」

なすがままに着衣を脱がされ、セイは一糸纏わぬ姿にされていた。

晒から解放された双丘は、白く確かなふくらみで、総司を魅了する。

「綺麗ですよ。だから、何も隠さないで………」

恥ずかしさに身を縮めるセイの手を優しく捕らえると、すべてを脱ぎ捨てた総司は隣に横たわり、
安心させるように抱きしめる。

女子にしか持ち得ない、セイの甘い匂いが総司の雄を駆り立てているなど知らず。

肌と肌が触れ合う心地よさに、目を閉じたセイが口元を綻ばせた。

「……先生、あったかい………」

程よく筋肉のついた背にセイが腕を回し、ぎゅっと抱きついた事で、そのやわらかい肢体を
総司は全身で感じられる。


小ぶりなふくらみも。

くびれた細い腰も。

なめらかな脚も。

秘めた花も。


―――――すべて自分のものだ。


これから先も誰にも見せない。

触れさせない。

自分だけの為に花咲く、愛らしい乙女。

その花を散らすも摘むも、すべては自分次第。


そう考えただけで、どくりと脈打つ自身を感じる。

まだ早いのは分かっていても―――――欲しいと心が逸るのは、止められない。

「もっと温めてあげますよ」

そう囁くと、総司はくちづけから再開する。

舌を差し入れた総司に、今度はセイも応えた。

「……んっ…ふ……」

舌を絡めあう卑猥な水音が、気持ちを高ぶらせていく。

セイの貌に陶酔の色が浮かぶ。

広い背を撫でるセイの手が、総司には先を促す合図に思えた。

慣れない為に何処かぎこちないくちづけを交わしながら、ゆっくりと身を起こした総司は
セイの上に檻を作る。

「…神谷さん……」

間近に見つめる目にも、掠れた声にも、欲望が滲む。

あの『神事』の夜からずっと、分かたれた己の半身を取り戻したかった。

いつも傍にいるのに、セイに餓えていた。


「………あっ………」

大きな掌が胸に触れると同時に揉みしだかれ、セイは思わず甘い声が出た事に、
自分で吃驚してしまう。

その合間にも、首から胸へと甘い肌を啄みながら伝い降りた総司の唇が、
もう一つのふくらみを優しく捕らえた。

「…………んんっ……」

もっと鳴かせたくて乳房を大きく口に含むと、その頂点にある桜色の乳首は瞬く間に尖り立ち、
総司の舌にその存在を教える。

口を窄めながら何度も吸いつき、ちゅっ、と音を立ててふくらみに朱い刻印を刻むと、
セイの目が艶かしく潤んでいく。

唾液で光る小さな肉粒のぷるりとした弾力を、征服者は何度も味わった。

「……せんせ…」

甘くねだる声に応え、総司はやわやわと掌全体で刺激を与えながら、もう一つの先端へ
赤子のように吸いつく。

「や……っあっ!」

軽く歯を立てながら舌先で扱いてやると、甘い悲鳴を上げたセイの腰が揺れる。

媚薬などなくても、自分が与える愛撫すべてへ、過剰なほどに応えてくれるセイの身体に、
総司はますます溺れていく。

やがて唇はなだらかな腹部へと降りて啄みながら朱印を残し、両手はセイの身体の線を
なぞるように往復する。

「…んぅ……」

脇腹から腰、その先の腿から膝までを辿る武骨な手が、まだ未成熟なセイの性感を
じわじわと高めていく。

過敏になった肌を時折引っ掻くように刺激する硬い感触が、掌のマメだと思い至ったセイは、
不器用な男への愛しさを募らせた。

伸ばした手で総司の首を抱くと、返事のように赤い花を刻まれる。

「……っは…」

膝から内腿へ撫で上げる掌がむず痒いような快感をセイに与え、朱唇から発せられる嬌声が
総司をますます虜にしていく。


「…あぁ……ん………」

総司の愛撫に少しずつセイの身体が馴染んで、艶やかな色香を醸し出す。

赤く尖り立つ乳首をまた甘く噛まれて、セイの膝がびくりと褥から浮いた。

その隙を見逃さず、両手で膝裏を掬い上げた総司は、そのしなやかな脚を容赦なく左右に広げた。

「―――――! いやっ!」

あられもなく暴かれた秘処は、行灯の僅かな光でも分かるくらい、すでにとろとろと蜜を湛えている。

「先生、やめて……っ!」

強く膝を掴まれて、脚を閉じる事が出来ないセイは、首を振りながら叫ぶ。

自分でもまともに見た事がない秘めるべき場所を、総司が見つめている恥ずかしさに、
また新たな蜜が溢れた。

「先生っ」

「しーっ。貴女が騒いだら、お二人に気づかれますよ」

暗なる脅しに、セイは泣きそうな貌で口を噤み。

総司は欲の滲んだ目で、愉快気に微笑った。

「…すぐに気持ちよくしてあげますからね……」

「っは」

舌先で蜜を舐め取られ、堪らずにセイが身体を仰け反らせる。

次いでとろりとしたそれを啜る卑猥な水音が耳を打ち、同時に感じる舌の動きが、
否応なしにセイの体温を上げさせた。

「ふっ…ぅ…」

「…蜜が甘くて、すごく美味しいです……」

次々と溢れ出る蜜を飽きずに舐めながら、総司は秘花へと指を這わせた。

「……ぁんっ…」

その形を確かめるように何度も指を滑らされて、そのもどかしさにセイは首を振る。

「……あっ、せんっ………!」

花芽を軽く摘ままれて、セイは脳天を貫く快感に、高い悲鳴を上げた。

そんなセイの様子を窺いながら、総司は充分に蜜を纏わせた長い指を、
愛撫でほどけた蜜壷へ慎重に差し入れる。


「痛っ」

処女に等しいセイの秘肉が、途端に指を締め付け侵入を拒んだ。

だが、抵抗を受ける前に奥へと滑り込ませた長い指を軽く引き、すぐにまた突き入れると、
総司は深く浅くセイの胎内を味わっていく。

「いやっ、痛い……せんせぇ…」

悲鳴を上げるセイの内腿へ唇を寄せると、そのやわらかい肌を総司は膝から付け根に
向かって啄み、舐めてはまた食んでいく。

充血してふくらんだ花芽を親指で擦ると、髪を乱しながらセイが頭を振った。

「……おきっ……先生っ……」

熱い肉襞が総司の指をきつく締め付けながらも、深く呑み込もうと蠢く。

その動きに気づき、狭い胎内を探っていた総司の指がある一点で、くいっ、と曲げられると、
セイがびくびくと身体を震わせた。

「…ああっ……」

その声が甘さを含んでいる事に、セイ自身が驚いた。

「大丈夫。貴女のイイところは、全部覚えてますよ………」

「どうして…」

疑問を投げようとしたセイは、同じ場所を強く刺激され、言葉を途切れさせる。

まだ痛みはあるが、それを凌駕する痺れが身体を支配した。

いつしか二本に増やされた指がそれぞれに動き、もっと大きなものを受け入れさせる為に、
セイの秘処を開こうと何度も抜き差しされる。

「あっ、せんせっ。駄目っ……!」


快楽の波がセイの意識を攫いそうになる。

愉悦の笑みを浮かべながら自分を観察している総司を、見ていたいのに。

もっともっと、自分の身体に夢中になって欲しい。

この先、他の誰も見ないくらいに。

愛した分だけ愛されたいなんて、こんなに自分を欲張りにさせたのは。

武士として並び立つよりも、女子に戻りたいと決意させたのは。

他でもない、目の前の沖田総司(おとこ)なのだから―――――。


「はっ、もうっっ」

身体の奥から湧き上がる熱が、セイを絶頂へと向かわせる。

それに気づいた総司が熱く囁いた。

「いいですよ、神谷さん。自分に素直になって………!」

「……あっ、はっ、いやあぁっ」

きつく目を閉じたセイの身体がびくびくと痙攣する。

同時にセイの胎内を蹂躙している指が、きゅっと締めつけられた。

「はぁ……っ…」

次いで弛緩した華奢な身体が、くたりと褥に投げ出される。

「ほら、ね」

達したばかりのセイを眺め、総司は満足そうに指についた蜜を舐めた。


「……せん…せ………」

まだ荒い息が、夜目にも白い胸を上下させる。

達した余韻で甘く潤むセイの目は、今以上の悦楽を望んでいた。

「―――――女人に溺れる自分など、かつては想像した事もありませんでしたが………」

セイの上に四肢をついた総司は、愛しい娘の熟れた唇に軽くくちづける。

「…沖田先生……」

「あの夜から、私の頭の中には女子の貴女が住み着いて……。
 夢現の一時たりとも忘れる事が出来なかった」

忘れろと言ったのは私なのにね、と総司は自嘲する。

真夜中の隊部屋で、眠れずにセイの寝顔をどれだけ眺めたか分からない。

ぐっすりと眠るセイは武士として己を鎧う術を持たず、女子でしかない愛らしさで総司を苦悩させた。


触れればすべてが壊れてしまう。

自分たちは、あくまで男同士でいなければ。

だが、日常には常に罠が潜んでいて。

袖捲りして洗濯するセイの二の腕。

稽古で踏み込んだ時に袴の裾から覗く脛の白さ。

胴着に籠もった熱と汗を逃そうと寛げる襟元を見れば、そこに甘く匂い立つ肌が
隠されている事を、意識せずにはいられない。

もう一度あの肢体が欲しいと、物欲しげに目がセイの全身を舐めていく。

見なければいいと警告する理性に、だが、本能がその場から逃れる事を拒絶した。

セイに心囚われて、もう何処へも行けない。

一歩も動けない。

こんなにも愚かな己は、セイという女子の存在を意識しなければ、知らずに済んだはずなのに。

この執着を昇華させる術は、たった一つ―――――。


「……私を誑かした罪は、その身で贖ってくださいね………」

先走りを滲ませ、存分に猛ったそれを秘花に宛がうと、総司はセイの呼吸を見計らって
一気に突き入れた。

「ああっ!」

「ほんの少しの間、堪えてください……」

指とは比べ物にならない、下腹部を内側から抉じ開けられるような圧迫感に、
息も絶え絶えになりながらセイが痛みを訴える。

「……あ……いや、……せんせぃっ!」

それでも容赦なく腰を進めた総司は、肉襞のきつさを愉しみながら根元まで
自身をセイの中へ収め、ようやく動きを止めた。

受け止めきれない痛みに喘ぎ、唇を戦慄かせるセイを両手で囲うように抱きしめると、
総司はその耳元で低く囁く。

「……愛してますよ、私のセイ…」

唇で耳朶を食み、舌を差し入れると、ほんの少し締め付けが緩む。

「…っあ……」

わざと音を立てて耳をしゃぶりながら、総司はゆっくりと腰を動かし始めた。

まずは浅く小刻みに。

セイの様子を窺いながら、少しずつ動きを大きくしていく。

律動に合わせてふるりと揺れる胸へ愛撫を施すと、セイが甘く鳴いた。

「あっ……ん…」

繋がった部分から淫猥な濡れ音が響くのに、セイはますます身体を火照らせる。

新たな蜜を得てぬかるんだ秘奥を目指し、総司は穿つ速度を速めていく。

「………あぁっ……」

もはやセイの口からは、意味のない喘ぎ声しか零れない。

もどかしく細い腰を抱え上げると、総司は熟れた花芯へと、猛々しく男根を叩き込む。

すらりとしたセイの脚をさらに開くと、より深く繋がろうと攻めていく。

そんな動きに追いつけなくて、縋るものを求めたセイは、伸ばした手に触れた布地を
強く握り締めた。

それに気づいた総司は腰の動きを緩めると、

「駄目ですよ。そんなに握り込んだら指を痛めるでしょう。……ほら」

セイの手から布地を取り上げ、己の首へと導く。

「これからは、縋るのも頼るのも、私だけにしてください」

上体を倒した総司が紅潮した面(かお)に唇を遊ばせると、繋がる角度がまた変わって、
セイが甘く鳴いた。

「ねえ、セイ?」

ゆるゆると細腰を揺さぶりながら返事を強要する総司に、セイは今にも蕩けそうな
意識に逆らって視線を向ける。

「……そんな……もしも先生に、傷でも」

言いかけたセイは、はっ、と息を飲んだ。

「もしかして、あの時の傷………!」


大和の国から帰った直後、一番隊では総司の首の後ろに引っ掻き傷を見つけ、
ちょっとした騒ぎになったのだ。

『はは……。白くて可愛い仔猫に手を出したら、引っ掻かれちゃいました』

そう言って照れ笑いした総司に、沖田先生らしい、と隊士たちは納得していたが。

本当はあの夜、無意識のうちに自分がつけた爪痕なのだと、セイはようやく気づいた。

「申し訳ありません、先生」

謝罪の言葉を告げる唇を軽く吸いながら、総司は腰でゆるく弧を描き、
まだ狭いセイの中を味わっていく。

「いいんですよ。こちらの『後ろ傷』は、男の誉れですからね」

「はんっ」

感じる場所を探り当てられ、甘く眉根を寄せたセイが、反射的に指先に力を入れた。

「―――――むしろ傷をつけるくらい、私を感じてください」

言いながら総司の動きが徐々に大きく早くなる。

熱い秘襞の締め付けを受け、痛いくらいに反り返る自身の限界が近づいているのを悟って、
快楽をセイと分かち合おうと高みを目指す。

「くっ……!」

肉食獣が獲物に喰らいつくようなその動きは、この時を待ち続けた総司の餓えを教えるように、
ますます激しくなっていく。

「せんせっ……それ以上……ああっ………!」

堪える間もなく二度目の絶頂を得て、きゅうっ、とセイの胎内が収縮する。

自身をきつく引き絞られて、総司もようやく秘奥へと精を迸らせた。









荒かった二人の呼吸も収まり、ようやく静寂を得た部屋の中。

まだ繋がったまま横たわった総司は、愛しい娘を抱きしめ、滑らかなその背をゆるく撫でている。

どうにも気恥ずかしくて顔を上げられないセイは、それでも満ち足りた気持ちで
総司に身を委ねていたが。

たまに総司の手が不埒に動いて、どうにも肌がざわついてしまう。

「……あの…先生………」

言下に離して欲しいと訴えるセイに応じ、上体を起こした総司は、だが、抜くと思わせた
腰を揺すり、秘奥まで占拠する肉棒の質量をむくりと増した。

「あんっ」

思わず洩れ出た声の甘さに羞恥を覚えた少女へ、男は邪気なく微笑んで見せた。

「言ったでしょう? 一度で終われるかは、貴女次第だって」

またも嘯きながらセイの二の腕を捉えた総司は、楔を穿ったままの華奢な肢体を
軽々と抱き上げる。

胡坐を掻いた総司の腿に跨るように座らされて、自らの重みでセイは更に深く
男根を飲み込む事になった。

「あっ!?」

驚くセイの胸の先端を、総司はぺろりと舐め上げる。

「やっ、沖田せんっ」

抗議する唇を深く貪って黙らせると、

「―――――二度目はもっと、愉しませてあげますから……ね…?」

情欲に濡れた眼差しで覗き込まれ、ぞくぞくと下肢から背中に走った甘い痺れに、
セイが背を撓ませた。







********







松本の巧みな話術と、弟に等しい総司の決意に感涙する近藤に拠って、
二人の祝言は直近の吉日が選ばれ、五日後という運びになった。

ごく内輪での式を、という当人たちの願いは当然ながら却下され、屯所の局長室で
華々しく執り行われる事になったのは、当然の成り行きと言えよう。

加えて、伏見に潜入した折のセイの愛らしい女子姿を見た事を、密かに自慢した
監察方隊士の話がまたたく間に広まった為、屯所内は更に白熱した。

曰く、沖田先生だけのものになる前に、皆の可愛い神谷を見納めさせろ、と。

半月もの不在の挙句、そのまま新選組を離隊する事になるとは、セイ本人のみならず、
周りの隊士たちにとっても、寝耳に水な一大事だったのである。


「貴女の人気の高さが窺えますよね」

悋気を滲ませた総司の呟きに、セイはくすりと微笑う。

「今は何も慶事がありませんから、きっと皆さん、託けて騒ぎたいだけでしょう」

「おや。貴女に恋慕する男たちの存在を、私が知らないとでも思ってます?」

思いがけない問いかけに、セイは軽く目を瞠る。

中村五郎のように誰の目にもあからさまに言い寄る男は稀だが、念弟に、という申し出は、
実は度々受けていた。

でもそれは、こっそりと庭に呼び出されたり、付け文だったりしたので、
他の誰にも気づかれていないとも思っていたのだ。

朴念仁な総司がそこまで気にかけてくれていたとは、正直意外だった。

「初めてお会いした十五の時。火事の中で助けていただいたあの日から、
 私は沖田先生だけをお慕いしておりましたから」

周りなど何もお気になさらず、と告げるセイに、

「貴女はちっとも自分を分かっていないから………」

総司はまだ不満気に箸を銜えた。


実際、一番隊の皆から祝福半分やっかみ半分で男泣きされた事は、セイには内緒にしようと
心に決めているが。

祝言を明らかにしてから僅か二日、隊内にいる間は隊士だろうが小者だろうが、目が合えば最後、
祝いの言葉を述べながらも『神谷清三郎』を得た男への揶揄や嫉みが引きもきらないのだ。

屯所内を歩いていても、道場で稽古をつけていても、幹部会議の時でさえ、
何処からか向けられる視線がちくちくと痛い。

こんな時、いつもちょこまかと何処かしらに顔を出して助力し、軽快に走り回っていた
セイの顔の広さがしみじみと実感される。

おまさやお孝のように、セイが新選組とは無関係の『一番隊組長の奥方』として認められるには、
まだしばらく時間を要するだろう。

総司としては、夫としてめいっぱい悋気する資格があると思わざるを得ない。

だからこそ、祝言の前に一度、隊士として最後に皆へ離隊の挨拶をしたいというセイの申し出は、
頑として許可するつもりはなかった。

加えて結婚後は、安易に屯所には近寄らないよう、改めて言い含める必要があるのは間違いない。

堂々とセイを射止めてもなお、総司の気苦労は終わりそうになかった。


「神……いえ、おセイさん。お一つどうぞ」

にこりと微笑って徳利を差し出したお孝に、

「ありがとうございます、お孝さん」

こちらも笑顔を向けたセイは、ありがたく杯を受ける。

それを見て、総司は目で合図をすると近藤と土方の元へ座を移した。

今宵は近藤が、親友と若夫婦を妾宅へ招いていた。

暮れの幹部会議が終わった時、隊部屋に戻りづらいと愚痴を零した総司を、
それならと誘い出したものだ。

実はセイの祝言の話を聞いたお孝に、是非にとねだられていた経緯もあり。

お孝と土方の間の蟠りをなくしたいと思っていた近藤の意向で、五人だけの
ささやかな宴となっていた。

それでも今日は料理茶屋から取り寄せた仕出し料理が並べられ、酒も奮発して
上諸白を持ち込んでいる。

「今日はまだ女子姿ではありませんのね」

残念ですわ、と溜め息をつくお孝に、セイは苦笑いをする。

「はい。今は新しい着物を誂えていただいているところです。
 それに、まだ女子姿は気恥ずかしくて」

「お住まいは決まりましたの?」

「いえ。とりあえず祝言だけ先に挙げて、しばらくは養父のところでゆっくりと
 支度を整える予定です」

そう告げるセイの脳裡には、花嫁本人よりも幸せそうな顔で、あれこれと嫁入り道具を選ぶ
お里の姿が浮かんでいる。


昨日、正一の留守を見計らって報告に訪れると、お里はセイの突然の吉事に驚き、
けれど我が事のように喜んで、様々な手伝いを申し出てくれた。

裕福な商家の娘たちの手習いとして、三味線や地唄を教えに赴き、いまや自力で
食べていけるようになったお里は、もう『お手当て』の心配は要らないと微笑み。

だが、山南の墓を守っている事もあり、これからも今の家に住み続けるという。

『おセイちゃんはうちの大事な家族なんよ。これからも何かあったら頼ったって』

本当なら義姉だったかも知れない女性の好意に、セイも素直に甘えるつもりでいる。

まずはお里のはんなりとした女性らしさを見習うのが、第一の課題だろうか。


「適うのなら、この醒ヶ井近辺に住んでいただけたら嬉しいわ。孝はおセイさんが大好きですもの」

後ほど旦那様にもお願いしてみます、と言いながら徳利を置いたお孝は、
そっとセイの手の上に、己の手を重ねる。

隊からの炊き出しを受け、家事の手間が少ないお孝の手はすべらかで、
太夫の頃とあまり変わらない。

「それに今度は孝が、おセイさんに教えて差し上げられます」

その眼差しの艶めかしさに、思わずセイは腰が引けてしまう。

なんだか、ひどく嫌な予感がした。

「………何を、でしょうか……」

得てして、そういう直感は当たるものである。

膝立ちになった孝は、一歩進んでセイの耳元で囁く。

「閨で旦那さまを悦ばせる為の『いろは』ですわ」

「えっ」

思わず飛び退いたセイに、うふふ、と孝は嬉しげに微笑う。

「新町で仕込まれた手練手管、すべてご伝授致しますわね」

瞬時に顔を真っ赤にしたセイは、ちらりと総司たちを盗み見る。

男達もまた、こそこそと何かを話し込んでいるらしく、お孝の言葉が聞こえた様子がないのに、
ほんの少し安堵した。

自らの枷から解き放たれた閨の総司は、まるで獣の如くで。

試衛館で鍛錬すると、もれなく『他行帰りで朝まで運動』が出来るだけの体力を
培われるものらしいと、セイに思わせた程だ。

そんな事を自分からすれば、どうなるのかは嫌でも察せられる。

出来れば、お孝の申し出を受けるのは遠慮したい。


「…そ、れは……」

「夫婦円満の為には必要な営みですわ。どうぞご遠慮なさらずに」

局長小姓の頃に眠れぬ夜を過ごす原因となった音やら声やらを思い出し、
自分には絶対に無理だとセイは内心で叫ぶ。

「いえ、あの私には」

「見目麗しい上に貞淑なおセイさんですもの。たまに『して』差し上げれば、
 おねだりにもおしおきにも効果がありますわよ」

当惑するセイを知らぬ気に、例えば、とお孝は魅惑の耳語を吹き込んだ。

セイは目を白黒させつつも、その閨房術を一語一句咀嚼してしまう。

恥ずかしいし、はしたないと思う。

本来ならば武家の女子が閨に侍るのは、あくまで子を宿すのが目的であり、
快楽を享受する為ではない。

また褥の中でも、夫の為すがままなのが常だとも教わっている。

けれど、もっとも総司の傍にいられる親兵の立場を捨てて、妻になる事を選んだのだ。

愛しい男を悦ばせたい気持ちは、セイの中にも確かにあった。


「―――――これならば、沖田様にも必ずや悦んでいただける事、
 この『御幸太夫』が保証致しますわ」

「………本当に、そんな……?」

話し終えたお孝の顔を間近に見つめながら、セイは思わず問い返す。

「ええ。これからまた、折々に教えて差し上げますわね」

婉然と微笑んだお孝には、数多の男達を虜にしてきた太夫の妖艶さが垣間見えた。

容貌はあまり似ていないようでも、やはりあの深雪太夫とお孝は姉妹なのだと、
セイは思わず見つめてしまう。

普段は清楚可憐な女子なのに、閨では床上手で婀娜な妓。

なるほど。

これでは近藤でなくても、一夜で陥落してしまう筈だ。

その気になった『御幸太夫』に口説かれたら、同じ女子であるセイも、下手をすれば
誘惑されてしまうかも知れない。

目を丸くしたまま黙り込んだセイに、お孝は内緒話をするように耳元に吹き込む。

「これからもまた、孝と親しくおつきあいしてくださいませ―――――ね?」







果たして―――――。

この日のお孝の囁きが、沖田夫妻の力関係にどう影響するのか。

それはまた、もう少し先のお話。







                                             終







表の宝物庫に掲載したto-ya様作 『神遊びの夜−秋宵宴』 の完全版ですv

実はこちらを最初にいただいたのですが、艶部分がある事を考えると表に展示することはできず、
かといって裏のみの展示では、駄文ばかりのうちのサイトでも特に駄文揃いの裏は全く宣伝していないので
訪問者様の目に止まる機会も極端に少ない。
悩んだ挙句 『表と裏のダブル展示』 という贅沢極まりなく、我侭な仕儀にあいなりました(笑)

艶部分の濃密さは溜息ばかりです。とても色っぽく、しっとりと艶やかなんですよね〜。
どうしたらこんな風に書けるのか・・・尊敬の一言です。

そして最も私的にお気に入りなのが 「他行帰りで朝まで運動」 のフレーズ。
これには大爆笑しました。
ケダモノ扱いされていた原田以上に、ストッパーが無くなった総司は怖ろしいかもしれません。
セイちゃん、隊に居る時よりも体力つけないとダメかもね(爆)

あのような駄文から派生したとは思えない素敵な作品です。
to-yaさん、本当にありがとうございました。今後とも、よろしくお願いいたします(礼)


そして表にも記載しましたが、to-yaさんはムーさんのサイト 『Ich liebe dich』 様の
GALLERY内にて作品を展示されてます。
今回のお話でもわかるように、とても豊かな世界が広がっていて超絶オススメです!
現在連載も書いてらっしゃいますので、是非足を運ばれてみてくださいませv