燗酒五部作 其の壱〜とびきり燗

(大晦日 かっしー&トシ)



鬼の霍乱--------ではないが
新選組の鬼もたまには風邪をひく。
しかもよりによって年末の忙しい時期に、である。
というよりは、広島から近藤が無事帰ってきて
ほっとした気の緩みが風邪を呼び込んだ、
といってもいいかもしれない。
近藤がいない新選組を一人で支えていたのだ
その疲れが一気に出てもおかしくはないだろう。
そんな訳でへろへろになりながらも
年内に終わらせなければならない仕事だけは片付けて
ばったりと倒れこんだのは
--------否、倒れこむことができたのは
大晦日であったのだ。
明日からの年始回りは近藤や組長たちに任せ
自分はやっと寝ることができる・・・・
そう思って自室で寝込んでいた土方であったが
広島から無事帰ってきたのは近藤だけではない事を
思い知らされる事になるとは
この時全く思いもしなかった。



「ひっじかたく〜んv風邪をひいたんだってv」

病がますますひどくなりそうな明るい声が
さらに頭痛がひどくなりそうな香の匂いと共に副長室に飛び込んでくる。

「ごほっ、伊東参謀・・・一体何をしに・・・・。」

できることなら物を投げつけるか斬り付けるかしたいのに
身体の節々が痛くて思うように身体が動かない。
こんな時に限って近藤も総司も近くにいない。

「やだなぁ、せっかくお見舞いに来たって言うのにv」

その手には何か鍋らしきものがぶら下がっている。

「君のために玉子酒を作ってきたんだよ、土方君v」

そう言うと伊東は土方の枕元に鍋を直接置いた。
その途端、焦げくさい臭いがあたりに漂う。
まだ冷めきっていない鍋が畳表を焦がしたらしい。

(この野郎〜三日前に畳表を替えたばかりだって言うのに!)

そんな熱い鍋の中に入っている玉子酒が無事であるはずがない。
本来凝固しやすい卵を扱うものだから温度管理は慎重に------
せいぜい人肌くらいの温度で玉子酒というものは作るものである。
それなのにその中身と言えば、すでに玉子酒ではなく
茶碗蒸しか玉子豆腐といった方がよいものが
鍋の中に存在している。否、そんなきれいなものではない。
しかも熱しすぎた酒独特の嫌な臭気も立ち込めている。

(とびきり燗で玉子酒を作る馬鹿がどこにいやがるっ!)

その馬鹿が目の前にいるのである。
しかもその馬鹿が鍋の中から玉子豆腐状の『玉子酒』をよそい
土方に飲ませようとするではないか。
土方は無言の抵抗を試みる。

「おや、ひとりで飲めないほどひどい状態なのかい?
仕方がないねぇ。じゃあ口移しで・・・・・。」

そう言って伊東が椀に口を近づけたその時、
土方の蹴りが伊東が持っていた椀に入った。



「ぎゃぁぁぁぁ〜〜〜!!あづ〜〜!!」

伊東参謀の悲鳴が屯所内に響き渡り、
試衛館派並びに伊藤派の幹部達が副長室に駆け付ける。
そして彼らの目の前に繰り広げられていた光景は---------。



寝間着のまま何も羽織らず部屋の隅で伊東を睨みつけている土方に
熱湯ならぬ熱玉子酒をひっかけられのたうちまわっている伊東の姿であった。



《終わり》




秋に行った酒蔵で教えていただいた燗酒5種をお題として
年末年始に拍手文を書かせていただきます。
テーマは『笑う門には福来たる』なんですが、これって笑えるのでしょうか?
表で書くかしとし(幕末)は初めてなのでこんな感じで許してやってくださいませv









風邪は引くわカッシーに襲撃されるわで散々なトシです(笑)

ぐらぐらに煮え立った玉子酒・・・。
想像するだけで眩暈がしそうな臭気ですねぇ。
でも空気中に溶けたアルコール分が風邪菌を消毒してくれるかもしれません。
ただしカッシー菌に対しては無効だと思いますが(爆)

この後の伊東派、特に内海さんの苦労が偲ばれました。