四つ彩語り
一
「まだですかねぇ」
元々高い位置にある頭が、それでも足りぬと伸び上がっては街道の先を見通そうとする。
京への入り口に当たるこの場所には、旅人に一時の休息を与えるためか
街道沿いに幾本もの榎が植えられており、心地良い木陰が作られている。
「先生。ほんっとぉぉぉに待ち遠しいんですね。局長のお帰りが」
笑いを噛み殺しながら問いかけるセイに照れくさそうに総司が頷く。
「だって試衛館にお世話になってから、こんなに長く近藤先生と離れていた事
なんて無いんですよ。なんだか足元が定まらないというか、
ずっと落ち着かない気分だったんですよね」
滅多に顔に出す事は無かったが、近藤が隊務で江戸へ向かった事が
局長命の弟分としては、どうにも寂しくて仕方がなかったらしい。
時折ちらりと浮かべていた不安そうな表情を思い出してセイの頬が緩む。
「でもねっ、やっと今日戻られるって知らせがあったんですから。
少しでも早くお顔を見たいじゃないですかっ! 早く来ないかなぁ?」
きらきらと木漏れ日を纏いながら嬉しそうに言葉を重ねるその姿は、
まるで主人を待つ子犬のようで。
今にも尻尾がぱたぱたと音を立てながら出現しそうだ。
「あっ!!」
街道の先に目当ての人物を見つけたのか、総司の弾む声が上がった。
そのままセイの手を掴むと、一目散に走り出した。
「近藤先生っ!!」
身に纏った木漏れ日の残滓を髪先から肩から散らしながら、きらきらと
その輪郭を黄金に染めて総司が走る。
全身で嬉しいと表現している総司に引き摺られながら、セイはふと思う。
自分も総司を見つけるとこんな顔をしながら、幸せの光彩を放っているのだろうか。
それは少し恥ずかしいような気もするけれど、知らぬ間に漏れてしまうものは仕方がないか、
と小さく笑う。
自分を置き去りにする事無く繋がれた総司の手を見つめながら。
喜びの色とは、重なり合う木の葉の隙間から一筋差し込む黄金とも白金ともいえる
光の色かもしれないと胸の中で思った。